貴志康一記念クラシックコンサート(3)
2007年 03月 18日
貴志康一が残した歌曲はベルリンで出版されたものとしては、「赤いかんざし」、「かごかき」、「かもめ」、「八重桜」、「天の原」、「風雅小唄」、「さくらさくら」の7曲と「花売り娘」、「船頭歌」、「芸者」、「力車」、「富士山」、「蕪」などかな。他にも埋もれている可能性はありますが。
歌詞は、「八重桜」が、伊勢大輔の「いにしえの 奈良のみやこの八重桜 きょう九重に いおいぬるかな」、「天の原」が阿倍仲麻呂の「天の原 ふりさけみれば 春日なる 三笠の山に いでし月かも」という有名な和歌に旋律を付けた物ですね。おそらく、ベルリンで1人でがんばっていた青年が故郷日本を思う真情が込められているのではないでしょうか。やってやるぞという心意気と故郷を思うセンチメンタリズムが良く伝わってくるということで、この2つの歌曲は、彼の歌曲のなかでも、グッとくる作品であります。
もちろん、他の作品もいいですよ。たいていは、貴志オリジナルの作詞なんですが、彼、かなりのユーモアの持ち主だったことがわかります。
ところで、昨日は、歌曲ではなく、歌曲からピアノ独奏版に編曲されたものの演奏。つまり、無言歌ですね。「船頭歌」、「八重桜」、「かもめ」の3曲だったのですが、やはり、「八重桜」でしょうか、白眉は。
なお、もともと「うた」とピアノの伴奏ですから、楽譜には「うた」とピアノの右手と左手の3段構成となっているものを、ピアノ独奏だとピアノだけの右手左手の2段ということになります。そのあたり、編曲する上で難しかったし楽しかったというのが編曲されたピアニスト小山さんの弁。なるほど、勉強になりました。
◇弦楽四重奏曲ニ長調 (初演)
私は、これを聴きたくて、この演奏会に足を運んだといって過言ではないでしょう。おそらくそんな人は私だけではないでしょう。
なにやら、彼が一応完成させた弦楽四重奏曲はこの1曲のみ。あと、描きかけのものはあと一つあるようですけど。
「一応」完成した作品と申しましたのは、昨日の演奏者である音登夢カルテットの木村さんがおっしゃってましたが、彼自筆の楽譜を見ると実際の楽器では出せない音が散見されるとのこと。ほんとうは、彼自身、手を加えたかったんじゃなかろうかと考えています。ですから、昨日の演奏も実際演奏用の楽譜として写す際に貴志の「思い」を配慮しながら手を入れられたとのことでした。
貴志さんはヴァイオリニストですから、彼の強い思いが先に行って、おそらくチェロの音域なんかで、演奏不可能な楽譜となったんでしょう。
さて、曲ですが、多少拙いところはあるように思いますが(貴志さん失礼!)、いやいや日本人クラシック作曲家として先鞭をつけたという思いも込めて傑作と言ってしまいましょう(笑)。
いや、本当。1楽章で終わってしまっているのが残念な作品です。彼が夭折しなければ、おそらく3楽章形式となったのでしょうね。惜しまれます。もちろん、彼らしい東洋的旋律が実に美しい作品です。
これで第1部「貴志康一の音楽」はおしまい。
さて、続いて第2部に突入・・・