ヴォーカル・アンサンブル・ラルテ・フィオレンテ第36回演奏会
2006年 12月 17日

いつも、ルネサンスのア・カペラの響きを心ゆくまで堪能させてもらう演奏会ですが、今回のプログラムは次のとおり。
Phillippe Verdelot (c.1480-c.1532)
フィリップ・ヴェルドゥロ
Si bona suscepimus
もし多くの善いことを私たちが受けたのなら
*
Cristobal de Morales(1500-1553)
クリストバル・デ・モラレス
Missa "Si bona suscepimus"
ミサ「もし多くの善いことを私たちが受けたのなら」
*
Jean Mouton(c.1459-1522)
ジャン・ムトン
Queramus cum Pastoribus
羊飼いたちと一緒に私たちは探そう
*
Cristobal de Morales (1500-1553)
クリストバル・デ・モラレス
Missa "Queramus cum Pastoribus"
ミサ「羊飼いたちと一緒に私たちは探そう」
みなさん、ヴェルドゥロとかムトンとかご存知ですか?モラレスならご存知の方も少しはおられるかな。なんて、生意気なこと言っています私なんかも、ヴェルドゥロやムトンは始めて耳にする名前であります。ムトン(=羊)ってクリスマスらしい名前ですけどね(笑)。
ところで、今回の演奏会は、いつもとちょっと違うところがありまして・・・
モラレスのミサ「もし多くの善いことを私たちがうけたのなら」は、ヴェルドゥロのモテトゥス「もし多くの善いことを私たちがうけたのなら」を、同じくモラレスのミサ「羊飼いたちと一緒に私たちは探そう」は、ムトンのモテトゥス「羊飼いたちと一緒に私たちは探そう」をもとに作曲されたものなんですが、それを並べ聴くことにより、モラレスがどのように原曲の良さをいかしながら作曲していったかを体感しようという試みであります。
他人が作曲した曲、もしくは自分が作曲した曲をベースに、その中で使われた数々のメロディを、そのままあるいは少々手を加えてミサ曲の中に採用し、一つのまとまりとする方法は、今では、良くて「あの曲の編曲」、悪くて「あの曲の盗作」などと言われてしまいますが、ルネサンスと氏の作曲方法としては常套手段であり、むしろそのことは奨励されており、作曲家は、そこに自らの腕をふるって評価を得ようとしたとのことであります。
オリジナルの曲は、宗教曲に限らず、世俗曲からも採られることが多く、信者にとっても、馴染みのある曲が多かったようです。比較的多くの人が教会やそれ以外の場所でよく耳にした旋律が、ミサにおいて流れたときの信者たちはどう感じたでしょうか。
今回は、作曲家モラレスがヴェルドゥロとムトンのそれぞれの宗教曲を元に作曲した2つのミサが演奏されたわけですが、確かにいずれもが、その曲の旋律をかなり忠実に採用しつつも、モラレス自身による旋律の動き方や和声の使い方が、ずっと進歩しており、元の曲のもつ雰囲気を大事にしつつも、はるかに凌駕する凝った作りに仕上がっています。
ムトンのモテトゥスの歌詞には「ノエ、ノエ、ノエ」という言葉が出てくるのですが、これは、フランス語のノエルと同じで、特に降誕祭の喜びを表す語で、ラテン語のnatalis(誕生の)あるいはnovus(新しい)に由来し、フランスのブルゴーニュ地方の言語だとか。この「ノエ」という歌詞は、この曲のみならず、16世紀には、多声による数多くの降誕祭モテトゥスの中に、その喜びを表す掛け声として取り入られているとのことであります。
なお、この「ノエ、ノエ、ノエ」の旋律をモラレスは実にうまく彼のミサで使っているんですね、これが。
ところで、クリスマスコンサート的色彩の強いプログラムでしたが、アンコールもヴェルドゥロとムトンそれぞれ作曲による「アヴェ・マリア」でした。初めて耳にする曲でしたが、「アヴェ・マリア」でも、グノー、シューベルト、カッチーニなんか有名どころでなくとも、馴染みはないですが美しい多くの「アヴェ・マリア」が埋もれているんでしょうね。

