ブリテン没30年(4)イギリス民謡による組曲「過ぎ去りし時」 作品90
2006年 10月 28日
なお、ブリテンは、終楽章についてのみ、イングリッシュホルンで歌われる旋律が、作曲家パーシー・グレインジャー(1882-1961)の採譜した民謡をそのまま引用していることを明かしています。この作品全体を、「愛情と畏敬の念をもって」パーシー・グレインジャーに捧げる目的で書いたとのこと。
↑パーシー・グレンジャー
なお、このタイトル「過ぎ去りし時 A time there was」の根拠となっているのは、イギリスの詩人トマス・ハーデイ(1840-1928)の詩によるもので、スコアの中扉に詩が掲げられれいるそうですね。
かってはそんな時があった
そう人は考えるだろうし、
世界が物語るように、実際そうなのだ
意識というものが生まれる前に
全てがうまくいっていた時があったのだ
↑トマス・ハーディ (トマス・ハーディといえば「テス」です)
ブリテンがこの作品を作曲した1975年とは、南ヴィェトナム政権が崩壊し、ヴィエトナム戦争が終結した年であるとともに、フランス・ランブイエで第1回主要国首脳会議が開催され、新しい世界の方向性が模索されつつある時代だったわけですが、世界から決して戦争が無くなったわけではなく、相変わらず、アフリカでは東西両陣営にかわっての代理戦争があちこちで行われておりましたし、英国においても、北アイルランド問題をずっと抱え続けていた・・・そんな平和とは程遠い時代でありました。
そのような1975年に、ブリテンはハーディの詩を借りて、かってそんな(平和で、諍いも無く、お互い憎み合うことのない)時代があったことを、純粋な民俗音楽の中に託したかったのではないでしょうか。
さて、私が持っているこの曲のCDは、サイモン・ラトル&バーミンガム市響によるEMI盤。私は、このCDがベストかどうかわかりませんが、とにかく、ブリテン最晩年のこの曲、一度は耳にしていただきたいですね。カップリングは御馴染みの「青少年のための管弦楽入門」や「シンフォニア・ダ・レクイエム」のほかに、「カナダの謝肉祭」や「アメリカ序曲」なども。結構楽しめるんじゃないかな。
1. 青少年のための管弦楽入門op.34
2. カナダの謝肉祭op.19
3. アメリカ序曲op.27
4. イギリス民謡組曲「過ぎ去りし時…」op.90
5. シンフォニア・ダ・レクイエムop.20(鎮魂交響曲)
さて、次回は、ブリテンの自作ではありませんが、ブリテンが盟友ピーター・ピアーズなどと一緒になって制作したアルバム「パーシー・グレンジャーを讃えて」を取り上げることとします。