「訪ねてみよう 戦争を学ぶミュージアム/メモリアル」岩波ジュニア新書
2005年 07月 12日

2人の執筆者は、いずれも高校時代を神戸で過ごし、阪神・淡路大震災の記録収集や記憶の問題に取り組んできた若手研究者。「訪ねてみよう 戦争を学ぶミュージアム/メモリアル」を執筆した国立歴史民俗博物館外来研究員(歴史学)の寺田匡宏さん(34)と、京都工芸繊維大学助手(建築史)の笠原一人さん(34)。
この2人は震災記録の収集・保存に取り組んでいる民間団体「震災・まちのアーカイブ」(神戸市)の活動に携わってきた方なのですが、「体験者に頼る伝え方では、震災はやがて風化する。当事者でない者が震災に積極的にかかわるにはどうすればいいのか模索。それは、戦争の記憶がどう伝わってきたのか、戦争を知らない者がどう向き合えばいいのか、という問題と重なった」とのこと。
2002年、2人は被災地の市民らとともに記憶や表現を考える研究会を発足し、沖縄、ベルリン、アウシュビッツなどを訪れ、負の記憶の伝わり方を調査した成果を今年1月、神戸で発表したところ岩波書店の編集者の目に留まり、出版に至りました。
ガイドブック「訪ねてみよう―」には37カ所を収録。展示内容にとどまらず制作者たちの表現の意図を読み解き、背後にある戦争に迫る内容となっております。ジュニア世代のみならず、実際戦争を体験していない人にお勧めいたします。
「ベトナム戦争メモリアル」(米国)では、戦没者の名が刻まれた石碑に、見る者の影が映りこみ、死者と現在を生きる人のかかわりを問う仕掛けを指摘。
「原爆の図」の連作が収められた「丸木美術館」(埼玉県)では、創設者である丸木夫妻の人間的魅力にひかれた人々の輪から、戦争の記憶を伝えようという力が生まれたと言及されておられます。
このほか、戦争に関するさまざまな視点を提供しようと、「手塚治虫と亡命ユダヤ人」「岡本太郎と水爆」などのコラムを収録しておられます。