ルルドの泉で
2012年 02月 20日

多発性硬化症という難病で車椅子の生活を余儀なくされている年頃の娘クリスティーヌリスティーヌを通して、信仰と奇蹟について、どちらかというと懐疑的なスタンスに立って描かれています。
舞台となっているのはフランス南西部のルルド。ピレネー山脈の麓にあるこの小さな村は、万病を治すと言われる泉や聖母マリアが出現したという奇蹟の地で知られているカトリック教の一大巡礼地。
人生唯一の楽しみである巡礼ツアーに参加したクリスティーヌはとりわけ信仰に篤いというわけではなく、ある意味観光気分というか冷やかし気分。
付き添いで世話するマリアは本当はスキーツアーに行きたかったなんて発言しているし、煙草をすぱすぱ吸ったりして、どう見ても真面目に世話しているように見えません。「マリア」なんて名前自体も皮肉が効いています。
障害者や孤独に苛まれている他のツアー参加者たちも体が自由になったという奇蹟の告白ビデオ見せられても「あんなこと言って、ずっと座ったままじゃない。おかしいと思わない」なんてひそひそ話に花を咲かせています。
神父たち教会側もトランプに興じたり、「キリストは、ベツレヘムもエルサレムも行くのに飽きた。おお、ルルドがいい」などとジョーク飛ばしたり。
その中で一番献身的にツアー客を世話していた介護主任のようなセシルが過労からか(おそらく脳卒中)で倒れます。そして倒れた瞬間、かつらが外れ、頭が禿げていたことが判明するのですが、ひょっとして、彼女は、癌の投薬治療などをおこなっているんじゃないかな。これも、ルルドで身を捧げている者にとって強烈な皮肉。そして、そのまま意識も戻らず、車椅子に横たわってします。
敬虔な信徒とは言いがたいクリスティーヌ(この名前も皮肉)が、彼女に旅も終わろうとしていたある日、突然歩けるようになり…、意中の男性と恋をしたり、ダンスをしたりと、クリスティーヌは初めて経験する幸せな気持ちを味わい尽くします。取り立てて信心深いわけでもないクリスティーヌに「奇蹟」が起き、敬虔な信者には必ずしも起きないのであります。
こうなってしまうと、彼女に嫉妬したツアー参加者は、こうした矛盾への疑問を聖職者に問いただし、「神は自由なのです」と神父は言うが、そんな言葉で納得できないのは当然です。
クリスティーヌも「この奇跡は持続しないのでは」との不安に駆られるようになっていきます。

ちゃんとツアー化されていて、介助ボランティアが翌日のスケジュールを発表したりする姿を見ると、カトリックの聖地でありながら、観光地として世俗化していて、あたかもテーマパークのようでもあります。私には、記念写真を撮る聖堂など、東京ディズニーランドのシンデレラ城のように見えてしまいました。
そして、大きな矛盾を感じたのは、奇蹟だと認められるためには、ルルド国際医療委員会の認定が必要だということ。宗教的な現象を科学で判定するのですから。