芥川龍之介の「六の宮に姫君」ゆかりの桜 ~京都・六孫王神社~
2010年 04月 28日
彼の著作の中ではいわゆる「王朝物」として分類されているのですが、今昔物語から採った男と女の物語。彼の「杜子春」や「蜘蛛の糸」などのように、子供でもちゃんと理解できる類のものではなく、哲学的で、いささか大人向き。
そういうこともあって、彼の作品の中で特別有名なものではないのですが、読み込んでいくとなかなか奥が深い・・・
父親を頼りに、その父母を失った後は言い寄ってきた優しい男を頼りに生きる、六の宮のほとりに住む姫君。やがて男は遠い任国へ行ってしまう。地獄も極楽も知らないその人生の終焉を迎えるとき・・・。
結局、極楽へは行けなかった・・・。こんなお話です。
さて、「六の宮」とは、JR京都駅の南口から西へ十数分のところにある「六孫王神社(ろくそんのうじんじゃ)」のこと。
当時の北に位置するこの六孫王神社は、清和源氏の武士団を結成した源満仲が、父の源経基(みなもとのつねもと)(六孫王)を祀るために創建した神社。現在の地は、源経基の邸宅の跡地。源経基は、清和源氏の祖と仰がれ、この六孫王神社も、「清和源氏発祥の宮」と称されるそうな。
清和源氏発祥の神社ということで(かな?)、かわゆい(?)神馬が奉納されていました。
ところで、「六の宮の姫君」では、次の一文が出て参ります。
「旧い池に枝垂れた櫻は、年毎に乏しい花を開いた」
実際に、六孫王神社には、今でも池があって、石造りの太鼓橋があるのですが、その傍に大変美しい遅咲きの八重桜が植えられています。
「六の宮の姫君」では、「乏しい花」と描いておりますが、それは、幸薄い女性の物語である以上、春を謳歌して咲き誇る桜とするわけにはいかなかったのでしょう。
六孫王神社は、龍之介の代表作の一つである「羅生門」として取り上げた「羅城門址」のすぐ近くということもあり、必ずやその「羅城門址」とこの「六孫王神社」とをセットで訪問したに違いないと勝手に信じ込んでおります(笑)。
それはともかく、六孫王神社の池の傍らの桜の美しいこと。
漢字一字で表現するなら、「艶」。
この神社は「知る人ぞ知る」桜の名所というか、いわゆる「穴場」の一つで、ソメイヨシノから遅咲きの八重桜まで結構長い桜を拝める、桜好きには、ほんとうに有難いお社であります(笑)。
私が訪問したのが、4月24日。ですから、さすがにソメイヨシノは葉桜状態だったのですが、お目当ての池の傍らの「六の宮の姫君」ゆかりの桜は、満開から散り始めへの移行期といった趣きで、美の極致というと少々大げさですが、その美しさについて、筆舌に尽くせないとは、まさしくこのことをさすのでしょう。
散った桜の花弁が池を覆っていました。
ひたすらに美しい。
そして、桜以外にも、
藤の花や・・・
ぼたん・・・
山吹・・・
石楠花・・・
そしてツツジまで。
色とりどりのこの時期の代表的な花が勢ぞろいといった風情で、いたく楽しめました。
観光地としては地味な存在ですが、JRの京都駅に近いというアクセスの良さに加え、東寺という観光スポットからも目と鼻の距離。遅咲きの八重桜咲く4月中旬から下旬にかけて訪問されることをお薦めいたします。