フランスのサーカス(11):「シルク・イシ」 ヌーヴォー・サーカスの新しい動き
2005年 10月 31日
サーカスの将来が危ぶまれていた1970年以降、フランスの若者たちは、新しい可能性を見いだそうとあがいていました。そして、劇場で演じられる芝居に飽き足らず、街頭へ飛び出た演劇青年たちは、身体表現の可能性をサーカスに発見。また、フランス文化に対する危機感を抱いた行政サイドもこうした若者たちのために、フランス各地にサーカス学校が開設。ここを母体にヌーヴォーシルクが生まれていくのであります。なかでもフランス文化省が設立した「国立サーカスアートセンター学校」は、世界各地から才能ある優秀な若者を集め、ヌーヴォーシルクの中心を担うアーティストを育てあげました。ちなみに、ギエルムは、この学校の第一期生。
サーカスは、ヌーヴォー・サーカスとともに息を吹き返すこととなります。
もともと、道化師の役回りは、芸と芸の間をつむぐことにあったのですが、ギエルムが一人で演じた「シルク・イシ」では、自力で動く奇妙なオブジェが、大きな役割を担いました。それらが、突然現れ、ユーモラスな動きで、観客を和ませるのであります。ただ、道化師役がなくなったかというと、ギエルムが道化師役を担っていたのであります。
「シルク・イシ」の「イシ」とは、フランス語で「ここ」という意味。ギエルムはとあるインタビューで「『ここ』で僕が何かをする。そして、自然に人が集まる。そこにサーカスが生まれる。・・・僕にできることのすべて、人間の行為というものを、それは肉体的なことだけでなく、精神的なことも含めて、見てもらいたい。そして、人間って面白い、人間にはこんなこともできるんだ、という発見をわかちあいたいと思ってます」と語っています。
「シルク・イシ」で、ギエルムは、「ここ」という小宇宙のなかで、道化師であるとともに、哲学者、詩人でもあるのですが、「ここ」という小宇宙を作る行為は、現代人が失いつつある人と人が交わる、あるいは、心と心を通わせる場を提供することかもしれません。
ということになると、日本における「茶道」の一期一会につながる行為かもしれませんね。