映画『アルゲリッチ 私こそ、音楽!』

言わずとしれた現在最高のピアニストの一人であるマルタ・アルゲリッチ。

彼女の2番目の娘の目を通してのマルタ・アルゲッチ像を描いていくというドキュメント映画なので、邦題「アルゲリッチ  私こそ、音楽!」というのはどうなのかな。若干の違和感あり。

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今から15年ほど前、パリのシャンゼリゼ劇場で、彼女のピアノを聴く機会がありました。
曲目は、ラヴェルのピアノ協奏曲。指揮は、彼女の2番目のご主人であったシャルル・デュトワ。この映画でもほんの少し登場してました。オケはフランス国立交響楽団。

このドキュメント映画でも、彼女の演奏会前のナーバスぶりが取り上げられていましたが、上記演奏会でも、演奏会前に、まだ会場に、彼女が到着していないアナウンス。1曲目(管弦楽曲であったと思いますが、何だったか失念。)が終わって、ピアノ協奏曲の番になっても、なかなか演奏が始まらない。十数分経って、やっとのことで彼女の登場。かなり不機嫌で、ステージの上でも、デュトワさんに対し、「私、ピアノを弾きたくない。体調が悪い」などとしきりにアピール。そして、元だんながなんとか彼女をなだめて演奏がスタート。もちろん、リハは一切なし、ピアノの椅子の高さもその場で彼女がコキコキ調整する始末。

第1楽章の冒頭では、彼女全くやる気なしといった感じだったのですが、だんだんと調子が出てきて、中盤では絶好調。そして、擬古的な美しさをたたえている第2楽章冒頭の2分以上のピアノ独奏では、精緻な筆致による美しい音色は、私が聴いたあらゆるピアノ演奏の中でも最も美しいものでありました。

もちろん、第3楽章の彼女の奔放でありながら繊細ですばらしいものでしたのでしたが、気の毒なのはデュトワさんとオケ。リハも十分行わず、とにかく、彼女の奔放ぶりから、オケはボロボロ。

それでも、深い感銘を受けたのは、もちろん彼女の凄まじくも繊細な演奏によるものなのでしょう。

そして、この映画での演奏前のシーンを見るにつけても、いつもそうなんだと、思わず苦笑い。

さて映画そのものについて。

いささか彼女の人生といったものが、いささか、謎めいていたり不可思議なところもあり、しかも、メディア嫌いということもあって、インタビューの数は極めて少ないところから、その謎を探る意味でも楽しめました。

3人の娘 リダ・チェン アニー・デュトワ ステファニー・アルゲリッチ、そして3番目の夫、スティーヴン・コバセヴィッチとは、良好な関係をキープしている様子は何より。

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一家の生活は、型にはまった理想的な家庭像とはかけ離れていて、父親は不在で、母はツアーで長期間留守にすることもあれば、子供と一緒に世界中を回ることもある。学校教育には無頓着で、次女のアニーは、学校なんか行かなくていいという母に対して「私は学校に行きたいの!」と、世間とは真逆の反抗をしていたことを、映画の中で笑って語っている始末。

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この母親に、どうしてこんな良い3人娘が育ったのだろうか。

ただ、言えるのは、彼女の3人の娘へのまなざしは、芸術家のそれではなく、母親のまなざしであること。
by tetsuwanco | 2014-10-27 20:52 | スクリーン

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by てつわんこ
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